2014年3月1日土曜日

想像力か死か

以下、グローバルマガジンで示唆に富んだ興味深いエントリーが配信されたので
リマインドと自戒を込めてアップ。

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◆ニューヨークタイムズ・セレクション 第67回
 ―トーマス・フリードマン

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■「起業するアメリカ」は最大の希望
 ―「想像力」が麻痺したワシントンの罪―

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●アイデアが満ち溢れるシリコンバレー
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【パロアルト、カリフォルニア発】

シリコンバレーを最近訪れて一番驚いたのは、わずか48時間の間に、なんと多
くの創造的アイデアを耳にできるのだろうか!ということだ。

「Linkedin」(https://jp.linkedin.com/)の最高責任者であるジェフ・ワイ
ナーは、彼の会社が目指す、世界中の働きたい人と全世界すべての求人を結ぶ
仕組みの構築について語ってくれた。そこにはフルタイムとパートタイム、営
利企業とボランティアが含まれ、各仕事に必要なスキルと、それを取得する方
法を提供する、あらゆる地域の高等教育機関にもリンクされるというものだ。

一方、「Box」(https://www.box.com/の最高責任者のアーロン・レヴィに
は、同社のオンラインストレージとの共同技術によって、モバイルデバイス上
にいる誰もが安全にファイルをアップロードすることができ、また、どんな場
所からでもその内容を共有できると説明された。

グーグルで全社の人事採用を監督するラズロ・ボックは、大卒以外の才能ある
人材を見出す独自の革新的な方法を披露してくれた。「エアビーアンドビー」
(Airbnb:https://www.airbnb.jpの共同創業者のブライアン・チェスキー
は、起業開始からまたたく間に、世界中の「宿」を手配できる世界最大級のサ
ービスを作り上げて、ヒルトンやマリオットに挑むようになったと語る。

iPhoneの「Siri」を発明したSRIインターナショナルの最高責任者であるカー
ト・カールソンは、ある世界的なイノベーターが、絶対ムリだと言った直後に
「あっという間にSiriを作ることに成功したんだ」という思い出を話してくれ
た。

彼らの共通点は、毎朝「今、世界のもっとも大きなトレンドは何か。それを利
用して成功するために、どうしたら最善のビジネスを考案・再考案できるか」
を問うことにある。彼らは、わずかなものの再分配ではなく、豊穣なものを創
造することにこだわる。そして、想像力をどこまでも広げることを重視する。
ここでは「不可能」として退けられるアイデアはない。


●ワシントンにおいて「失敗は犯罪」
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将来を創造する彼らからたっぷり元気をもらい、それでは現在起きていること、
つまりワシントンからのニュースをチェックしようとホテルの部屋に戻ってみ
ると、2つの見出しが危険信号のように点灯して目に飛び込んできた。

ひとつは、下院議長のジョン・ベイナーが2014年における移民改革の検討は
「不可能」と言ったこと。もうひとつは、上院多数党院内総務のハリー・リー
ドが、欧州連合やアジア太平洋地域における米国最大の貿易パートナー数ヵ国
との重要な自由貿易協定の成立に不可欠な「迅速な」立法は、「不可能」と表
明していることだ。2016年までとは言わないまでも、とにかく2014年の中間選
挙までは、どちらも忘れてくれというわけだ。AP通信は2月9日にこれらの取り
繕いようのない事実をまとめて、以下のように報じた。

「ワシントン発(AP) ――聖燭節(2月2日)からわずか一週間あまりで、少な
くとも秋の選挙結果が明らかになるまで、議員たちは2014年のもっとも重要な
仕事の大半を締めくくってしまったことが次々と明らかになっている」。何と
いう違いだろう。シリコンバレーでは新しいことをはじめるためのアイデアが
生まれ、ワシントンではアイデアが死に絶える。

なんと対照的なのだろう。
シリコンバレーではアイデアが次々生まれ、ワシントンではアイデアがどんど
ん死んでいく。シリコンバレーでは「想像力」に限界というものがなく、実験
した結果、失敗に終わっても称賛される。ワシントンでは、何か新しいことを
しようとする「想像力」は、オバマケアでカバーすべきメンタルの病だとみな
される。失敗することは犯罪なのだ。
できるだけ賢くあれ!というシリコンバレー。愚かなほうがいいんだ!という
ワシントン。

確かにシリコンバレーのリバタリアン(※1)の中には、ワシントンの麻痺状
態に喝采を送る者もいる。しかし、事態はそんなに単純ではない。われわれに
は、特に今日においては、われわれが必要とし、かつワシントンに求める一定
の権利「リーグ・ミニマム」(※2)というものがある。


訳注:
(※1)福祉国家のはらむ集産主義的傾向に強い警戒を示し、国家の干渉に対
して個人の不可侵の権利を擁護する自由論者
(※2)大リーガーの最低保障年棒


●活用できない勝者のカード
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米国は今、エネルギーと金のとてつもない鉱脈を同時に発見したところだ。ま
ず、掘削技術の進歩によって、膨大な量の天然ガスの新しい源泉が解き放たれ
た。これを環境的に安全な方法で取り出せば、今後何十年にもわたり安価でク
リーンなエネルギーが得られ、米国は製造業の中心国としての地位を復活させ
ることができる。

また同時に、米国企業がクラウド・コンピューティングによる「モノのインタ
ーネット」(※3)の分野においては優勢であり、いわゆるビッグデータ時代
において大きくリードしている。この分野では、データをもっともうまく収集、
分析、保護し、そのデータから学んだことを、製品やサービスの改善にいち早
く適用するソフトウェアを使う者が勝者となる。このデータの山と、それを活
用するツールこそが新しい金鉱だ。そして、われわれはそれを手にしている。

この2つの鉱脈を、より多くの雇用や富の創出につなげるためにワシントンが
最低限やるべきことが2つある。ひとつめが輸出市場の拡大であり、もうひと
つが新たな移民政策の導入だ。これは、不法滞在者に市民権を与えるために必
要なのではない。われわれの手元にあるビックデータを活用するソフトウェア
を作りだすことのできる最高の頭脳をアメリカに誘致するために必要なのだ。

しかし最近のワシントンは、このリーグ・ミニマムすら満たそうとしていない。
エコノミスト誌の『ハリー(リード)がバリー(オバマ)を略奪した時』と題
した記事では、ほとんど交渉済みの、日本などアジアの大きな市場を対象とす
るTPP(環太平洋経済協定)と、現在交渉中の米・EU経済協定はともに「次世
代」協定だとしている。

それは、これらの協定が米国の貿易相手国に対し、環境および労働の基準を上
げること、および米国のソフトウェアとサービスへのアクセスの拡大を要求す
ることにより、市場条件が均等化されるからだ。

エコノミスト誌は、さらに続けてこう言う。「いくつかの研究では、提案中の
アジアとヨーロッパとの協定は世界で年間6000億ドルの利益を生むが、このう
ち2000億ドルはアメリカのものになるとされている。そして、これらの協定は
サービス市場での競争を促進させるため、この数字は実際の利益より低いと言
える。なぜなら、サービスは豊かな国の生産の大半を占めているにもかかわら
ず、現在は、ほとんど国境を越えて取引されることがないからだ。金融や運輸
のような業界を開放して競争を推進すれば、消費者にとって大きな利益となる
だろう」。


訳注:(※3)あらゆる物がインターネットを通じてつながることによって実
現する画期的なサービス、またはそれを可能とする要素技術の総称。


●創造性の欠如は滅びへと向かう
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米国の通商代表であるマイケル・フロマンは、もし、この2つの協定を締結で
きれば、米国は「世界の3分の2」と自由貿易ができることになると私に語った。
これに米国の低コストで製造に役立つクラウド・コンピューティング、ソーシ
ャルメディア、ソフトウェア、天然ガスなどの分野における優位性と、さらに
法規範や起業家文化を合わせたらどうなるか。あるヨーロッパのCEOが、米国
は世界中の製造業者にとって、操業と世界に向けた輸出を行なううえで「えり
抜きの製造プラットフォーム」となると言った意味が理解できるだろう、とフ
ロマンは述べている。

しかし、すべては少なくとも2015年以降まで待たねばならない。その時になれ
ば、2016年に向けた活動がはじまる一週間程度前に法制定の時間があるかもし
れない。どちらの政党についても、神は、各々の党内にいる、より自由な貿易
や移民に反対する者に異議を申し立てるのを許さないだろう。実際、それをす
るにはリーダーシップが必要だ。

政治的駆け引きを廃止することはできないし、また、そうすべきでもない。し
かし、そのような旧態依然とした駆け引きを容認できない時もある。そして、
格差が広がる今は、見送りを容認できない時なのだ。望ましい雇用と成長を生
み出すために、できることはすべてやらねばならない。

SRIインターナショナルのカート・カールソンは、「豊穣を生み出すマインドが
ない時、人は無理に搾り出すモードになり、それは滅びへと向かう悪循環とな
る」と言う。

起業するアメリカは、われわれが抱く最大の希望だ。確かに、われわれは他国
よりはうまくやっている。しかしアメリカン・ドリームとは、「汚れた中では、
一番きれいなシャツ」という程度のものではなかったはずだ。


(翻訳:松村保孝)

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